科学者はゲストに呼ばない
~健康情報番組のテクニック~
百家争鳴ダイエット学6(2005年3月10日沖縄タイムス寄稿文より改変)
あるテレビの人気健康情報番組とケンカ別れをしたのは「低インシュリンダイエット」というダイエット法の紹介番組を作る時だった。以前もその番組に情報を提供をしていたせいか番組製作の担当者は饒舌にストーリーを話し始めた。「そこで河口さん、このストーリーのこの部分でコメントしてくれる先生を紹介していただけませんか?」
要は実験もしていないのに実験結果まで出ているそのストーリーに科学的な裏付けをしてくれる先生を捜しているとのことであった。「いることはいますが、少しやりすぎではないですか?」
健康情報バラエティ番組がダイエットの特集を組むときはいくつかの決められたルールがある。一つは科学者を番組の途中のスポットで登場させるがゲストとしては絶対にスタジオには呼ばない。それは科学者が収録中に番組全体を否定しないための最善の策だからだ。
科学者ははっきりしないことに対しては「可能性がある」「期待される」「示唆される」などの言葉で締めくくるが、番組は「だからやせる」と断定する。両者は似て非なる結論である。
人を使った実験結果はほぼ100%成功させるというルールもある。その為に彼らは科学的な実験方法を知っていながら使わない。科学的な実験方法は簡単である。
Aというやせる物質があるとすると、それを含む錠剤と、含まない錠剤(偽薬)を作り二つのグループに飲ませる。もちろんどちらにAが含まれているかは被験者には教えない。その結果、二つのグループに差がでればAに効果有り、良くも悪くも差が出なければ効果なし、だだこれだけである。
いささか専門的になるが、このやり方をすると再現性というものがでてくるので、インチキがばれやすいという彼らにとっての問題がある。
その学説に異を唱える先生を紹介しないのもルールの一つだ。いちいち反論をする先生を登場させてはハッピーエンドでは終われない。
そもそも健康情報バラエティ番組は娯楽番組であり真実を伝えることを最大の目的とはしていない。毎週視ているファンならばかつて何度も”究極”のダイエット法が紹介され、その内容が矛盾していることに気がついているはずだ。
こんな裏話をすると、なぜか後ろ暗さを感じてしまう。ダイエットガイドを名乗って数年、私も立派な業界人になりかけているのかもしれない。
(ダイエットガイド河口哲也)
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